トリガー・ハッピー

オタク、限界

限界オタクは博多座の夢を見るか?前編/万葉ロマン あかねさす紫の花 レビュー・ファンタスティーク Santé‼︎〜最高級ワインをあなたに〜

※ドキュメンタリー風でお届けします。

五月某日の22:00過ぎ、限界オタク(20代)は飲み会が終わり、家に帰って鍵を開けようと一生懸命電車のICカードを鍵穴にタッチしていた。そして次の瞬間思った。「そうだ、博多座に行こう」

博多座ーー。それは空想の土地である。否、正確には空想の土地であった。限界オタクの前にいつのまにかくっきり現れた博多座という現実。それはいつしか限界オタクの原動力となる。

スタッフ「いつから意識し始めたんですか?」
オタク「元々は行く気は全くありませんでした。一月に花組に出会った当初は若手俳優のオタク全盛期でしたし、宝塚大劇場もすぐそばにありましたしね」

限界オタクははにかむ。

オ「四月から環境が変わり、ストレスに耐えきれなくなり気づいたら博多行きを決めていました」
ス「救いを求めたんですね」

今回は前後編に分けて、社会の波に揉まれ心を失ったオタクが博多座に行き人間性を取り戻す様子に密着する。

五月中旬

ス「こんばんは」
オ「お疲れ様です」

大きなスーツケースを持った限界オタク、今日は前入りである。

ス「どこに泊まる予定ですか?」
オ「あまりにも突発的だったので、高いホテルしか残っていませんでした。なので今回はホステルです」

今回の宿はBOOK AND BED TOKYO FUKUOKA。東京なのか福岡なのかは瑣末な問題だという。

FUKUOKA | BOOK AND BED TOKYO

 

オ「うちらオタク、心の居場所が全てじゃないですか。そういうの、大事にしていきたいなって」

泊まれる本屋で話題のこのホステル。限界オタクは読書がまあまあ好きだが、今夜はそれどころではない。高まる感情。

オ「あ、やばい」
ス「どうしたんですか?」
オ「ホテル、キャトルレーヴの隣でした」

爆笑の後、爆笑。
パルコにあるのは知っていたが、まさかのキャトルレーヴの真横であった。めっちゃ宝塚好きな人みたいで恥ずかしいな...と思ったけど限界オタクはめっちゃ宝塚好きなので照れる必要はない。

時刻は22:30。限界オタクは早くも就寝の準備を始める。

スタッフ「もうお休みですか?」
オタク「あ、はい。明日は5時半起きなので」

オタクの朝は早い。特にヅカオタの朝は異様に早い。

オ「おやすみなさい」

 

翌日

7:00、オタクの姿は博多座にあった。

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スタッフ「おはようございます」
オタク「あ、お疲れ様です」
ス「朝、早いですね。」
オ「まあそうですね、でもチケットのためなので」
ス「当日券ですか?」
オ「そうです。突発的な予定だったので、チケットを前もって入手していませんでした」

この時間でもオタクは10番目である。

オ「一番の方何時に来たんでしょうか」

折りたたみ椅子を広げながら呟く。

オ「私にとってはじめての劇場だし地方だし予想が難しいですね。オタクとオタクの探り合いですよ(笑)」

軽口を叩くがしかしその目の奥は燃えている。
10時になると劇場が開き、券売場前の椅子に案内される。なんと昼夜両方のチケットが買えるらしい。

オ「え?マジ?」

隣のご夫婦がマジだよって言ってくれた。マジだった。

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「やっちゃったな〜〜。五月、虚無食うしかないですね(笑)」なんと昼夜買っちゃった限界オタク。ほんとうに限界である。
給料が入ったばかりではあるが、そんなものはほぼないに等しいのだ。オタクの銀行口座には穴が空いている。

「中に入ります」

限界オタクは慣れた手つきでチケットの折り目を一度折る。ちぎってくれるお姉さんの負担を考え、いつもこうしているらしい。
「チケットもぎりのお姉さんにはいつも感謝し
ています。お金を払うだけで入れてくれるんですからね」
よく分からない。

中はデパートの物産展のようだと言っても過言ではないほど屋台が立ち並んでいる。これには限界オタクもびっくりしているようだ。
中には「花組公演」と書かれた熨斗を巻いた通りもんなどがある。
オタク「こんなん買ってまうやろ。ずるい」

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休憩が35分と長く、軽食が充実している。観劇と食事が楽しめるという特殊な劇場のようだ。

限界オタクが今回購入した席は補助席Bという席である。会場のお姉さんに席を尋ねると一番後ろのふかふかの椅子に案内され、足場も出してくれる。
限界オタク「すごいですね、ここまで丁寧に案内されるとは...。別箱は初めてですが、博多座そのもののファンになりそうです」

後方ではあるが、椅子が高いため全体が見渡せる席である。限界オタクは双眼を取り出しピントを合わせていく。その手つきは異様に小慣れており、スタッフがざわつく。

スタッフ「早いですね」
限界オタク「そうですか?(笑)もうよくわからないです。私の中指と親指は双眼のピント合わせるためにあります」

一部は「あかねさす紫の花」。何度も再演を重ねた名作である。限界オタクは和物が好きである。幕が開いた瞬間にハッとするほど華やかで心奪われる。幕が降りた途端目を瞑る限界オタク。彼女が何を感じているのか、スタッフにはわからない。

幕間中、インタビューしてみた。限界オタクは誰かと話しているようだ。

スタッフ「今大丈夫ですか?」
限界オタク「あ、すみません。もう大丈夫です」
ス「お友達ですか?」
オ「フォロワーさんですね」
ス「なにか渡していたようでしたけれど」
オ「スチールです」
ス「スチール?」
オ「なんかよく分かってないんですけど、顔のいい人たちが写真になっているんです。すごいですよね。」
ス「フォロワーさんの分もご購入されたんですか?」
オ「いや、スチールは無料なんですよ。190円です」

買っている。

オ「あ、二部が始まりますね」
ス「二部はどういったショーなんですか?」
オ「最高」

二部は大劇場で公演された「Santé!!〜最高級ワインをあなたに〜」の再演だという。限界オタクは宝塚にハマって映像で見たが、初見で大好きになった。そんな作品を今回は生で観劇できる。彼女の顔はテカテカしている。

終演後

スタッフ「いかがでしたか?」
オタク「無理」

言語化するのが無理なようだ。彼女が落ち着くのを待って、感想を聞いてみた。

オ「一部はやっぱり名作というだけあって、物語に重厚感がありますね。私は中大兄皇子が好きじゃありませんけど。だって弟の嫁を堂々と取るなんて現代じゃ考えられませんよね。でもね、鳳月さんならオッケー。だってあんな帝王の風格を持った美丈夫に『わた〜〜しは〜〜おま〜えが〜ほしい〜〜』って言われたら『はい』の一択ですよ。でも私の倫理観が割と許さないところがあり困っています。また明日海さん演じる大海人皇子が切ない。額田が兄に惹かれているのをなす術なく見ているだけ...。切な...。
天比古は最高。自分の恋人でもない女に幻想を押し付けて勝手に幻滅して泣いて怒るのは古今東西ドルオタしか許されない。しかも別の女の膝の上で泣く。最高。」

スタッフ「ショーはいかがでしたか?」

オタク「うっ」

うずくまるオタク。

オ「私ほんとにサンテ好きで...。それが生で見られたのがとっても嬉しいです。オープニングからの多幸感が尋常じゃないですね。五大女装から会場の盛り上がりも異常でした。振り返る度にヒューヒュー言ってるし本当に楽しかったなあ。そこから明日海さんの『Santé!!』でテンションぶち上がりからの二番手以降が女装から打って変わって爆イケのオラオラで歌い上げてくれるまでの流れが本当に好きです。ジゴロの柚香さんは女に「この人には私がいてあげなくちゃ....」って勘違いさせるのが天才的です。実際彼には気の置けない仲間と少しの酒があればどうにか生きていけるんですけどね...。柚香さんといえばフルコースのお魚で信じられない勢いで飛び出してきたのが印象的ですね。実家の犬を彷彿とさせました。
私がサンテで特に好きなシーンのうちの一つは、仙名さんのダルマシーンです。仙名さんは娘役さんですが、男役なんか目じゃないくらいオラついていて、生き生きとしていて涙が出てしまいますね。月組Baddyのグッディラインダンスに似たエモがあります。仙名さんが本当に好き!!!もちろん明日海さんも大好きです。一番好きなのは」

語らせると止まらないため、割愛した。

19:00、食事に向かうようである。

オ「遠征の醍醐味は食事ですよね。良いものを見て良いものを食って寝る、これが全てです」

f:id:mimikomgmg:20180607185755j:imageもつ鍋 笑楽 福岡本店 (しょうらく) - 天神南/もつ鍋 [食べログ]

オタク「遠征のたびに少しずつお店を開拓していくのは、若手俳優オタクからの小さな楽しみです。好きなお芝居を観た後においしいものを食べてホテルに帰ってなにもせずに眠ることのみに幸せを感じます。福岡は特にごはんがおいしすぎるので遠征でいろいろと食べたいと思います。」

スタッフ「本日の予定は終わりですか?」
オタク「そうですね、明日は仕事です。次はBパターンまで観劇予定はありません。気が狂いそう。今すぐサンテが見たい」

新幹線に乗り込み帰って行く限界オタクの背中は逞しい。

 

後半に続く