トリガー・ハッピー

オタク、限界

フロリアン・ザイデルとは一体何者なのか?/霧深きエルベのほとりがヤバい


あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。


早くも宝塚初めを終えて、今年も宝塚に魂を燃やしていこうと言う決意を新たにした私が新年一発目にお届けするエントリは、表題の通り星組公演「Once upon a time in Takarazuka 霧深きエルベのほとり」がヤバイ、という内容である。
ネタバレ必至のため、これから見に行く予定でネタバレ拒否派の人にはおススメしない。
また、本エントリは筆者の多大なる主観が含まれるため解釈を拗らせているめんどくさいオタクは今すぐこのページを閉じてタカラヅカスカイステージの視聴に戻って欲しい。ポーの一族とか見よう。


潤客はこのブログでもお馴染み、上田久美子先生である。
彼女がこの作品を再演するに至った経緯は以下の通りである。


「エルベ」との出会いは、宝塚歌劇を知ったばかりの学生時代に遡ります。入団試験では脚本を書かねばならぬということで、宝塚の脚本とはどんなものかと脚本付き中古プログラムを何冊か購入した中に、偶然『霧深きエルベのほとり』がありました。大昔の作品だとタカをくくって読み始めたその古めかしい脚本が、誰にでもすんなりわかる完璧な物語構造と、素朴な言葉の中に本物の男らしさを宿す台詞を兼ね備えた、自分には逆立ちしても一生到達できないさそうな戯曲であることを発見し、私は衝撃を受けました。

宝塚は新作主義ではありますが、正直に認めると今の私の力ではカールに匹敵する男性像は描けず、私の新作よりもこのカール役でこそ紅の真骨頂が発揮されると考え、「エルベ」を受け継がせてほしいと劇団に掛け合った次第です。

 

霧深きエルベのほとり パンフレットより


このように、過去の大作であった『エルベ』を新進気鋭の客演家上田久美子が手がけることになり、TLが賑わった。
私は上田氏の手がける作品が好きで、特に『金色の砂漠』『神々の土地』は何度見返えしても新たな発見があり、感嘆する日々である。
そのため、彼女の新作ではないことに少しの不満を感じながらもチケットを取った次第である。
結果、凄いものを見てしまった。
頑張って説明するけど、多分ヤバさが伝わらないと思うので是非見に行って欲しい。

 

 

〜登場人物〜
カール(紅ゆずる):とてもいい人

マルギット(綺咲愛里):お嬢さん

ロリアン(礼真琴):マルギットの婚約者、またの名を無。声がでかい。


最近涙もろくてすぐに泣いてしまうので正しいバロメーターにはならないけど、割とずっと泣いていた。
最初に泣いたのはカールがマルギットにプロポーズするも、「1年に2着しか新しい着物を買ってやれない」と釘を刺すシーン。マルギットは快諾する。
カールはマルギットを妻に迎えることがいかに困難か理解した上で、それでも妻になってほしいと願う。マルギットも、今までの生活を捨てて貧しくともカールの妻となることを受け入れる。
泣いちゃうでしょ...。
彼らの関係はあまりに現実味がない。


前日のビール祭に出会って一夜で結ばれた2人。
カールに身分を聞かれてもマルギットは一貫して「ただの家出娘」だと言い張る。
カールはそれをそのまま信じたかのように思えるが、やはりマルギットの容姿や言動は庶民のそれではなく、カールも彼女の高い身分にうすうす勘付いているにちがいない。だからこそ自分は今と同じ生活をさせてやれないがそれでもいいのかと問う。

 

ビール祭のビールの泡から
二人は浮かび出た


あぶくに浮かんだ男と女が恋をした
若き日の恋
ビールの泡のように
花はひらいて いつの日か消える


菊田一夫氏の作詞である。
題の「泡沫の恋」とあるように、ビールの泡のような儚い恋人たちはそう遠くないうちに別れる。
それが客席にも、そして結婚を誓う二人にも痛いほどわかっているのが切ない。
「妻に自由に衣服を与えてやれない身分のカール」と「望まずとも与えられてきた立場のマルギット」を描き対照させる秀逸な台詞だと感じた。また、作中で(私が把握した中で)マルギットは5回衣装替えするのに対し、カールは用意された燕尾服*1以外には一度も船乗りの服装から変えない。ここにも二人の身分の差や意識の違いが現れているように思える...。
このシーンに関しては、よくある身分差の恋物語に過ぎない。私がヤバイと感じたのは次のシーン。

 


マルギットはカールと結婚するため父親を説得し養子縁組を組んでもらうこととなる。しかしそれは父の言ったでまかせであり、披露会では矢張りカールとの結婚は許さないと一蹴される。カールはマルギットの父に「この家の財産を継げないのであれば結婚する意味はない」と言いマルギットを失望させる。マルギットは悲しみをピアノ演奏にぶつけ、婚約者のフロリアンはそれをたしなめる。


問題はこのマルギットの婚約者のフロリアン(演:礼真琴)ですよ。


彼はマルギットと幼馴染で既に婚約を発表しています。しかし、カールの登場で「マルギットと婚約していた人(過去形)」になります。それだけでも居た堪れないのに、なんと彼はマルギットとカールの婚約発表の場を回す司会的な位置を買って出ているんですよ。なんか怖くね?


ロリアンは完璧な人間です。
家柄もよく人柄も非の打ち所がない。(付け加えるなら顔も良いし歌が上手い)そんな役所でありながら全く嫌味がないのは演じている礼真琴さんの技量だと思うのですが、それにしても人間が出来過ぎている。
私だったら婚約してた人に別の人と結婚するわ〜発表会来てね!って言われたら、ブロックしてツイッターで悪口を書く。それくらいは許されて然るべき。
でもフロリアンは長文メモ帳スクショツイートはしないのです。それが彼の美徳だから。
ロリアンは自分とマルギットの婚約を祝福してくれた友人たちに、今度はカールとマルギットを祝福してやってくれと言います。怖い。
また、カールが上流階級の人々の前で愉快な海ジョークで滑った時でさえもそれを拾ってあげる。怖い。
自分を傷つけた人たちに何故そこまで親身になれるのか。


彼はそれを「マルギットを愛しているからだ」と言います。


愛、複雑すぎん?奥深い...。


一番ヤバイと感じたのは、前述のとおりマルギットはカールが言った父への言葉に傷つきピアノを弾くシーンです。マルギットはカールに裏切られたと思い、ひどく悲しむ。そこへフロリアンがマルギットを嗜めるように言う。


「マルギット、僕たちは小さい頃から兄妹のように育ってきた。これは兄貴分として言うんだ、よくお聞き。カールはなにも君の財産が目当てというわけではない。愛しているなら信じてあげなさい(うろ覚え)」


そう言われたマルギットは自分はカールを愛している、信じると言います。


ここで畳み掛けるようにフロリアンはマルギット言います。


「さっき君は人々からカールをかばおうとしたね、それは君自身がカールを恥ずかしいと思っている証拠だよ(うろ覚え)」


怖い。観客はそんなこととっくに気づいてて、もしマルギットに話せる立場だったら「さっきのちょっと感じ悪かったよ^^;」って伝えてたかもしれないけど、フロリアンがそれをいうのはもう恐怖の域。
ここでわたしは思いました、フロリアンってもしかしたら狂言回し的な作用も持ってる?と。まあここの是非は今後確かめるとして、フロリアンの勢いは止まらない。


ロリアン「君はお父さんへの憎しみでカールと結婚したいと言ったのではないか?今その憎しみを失ってもカールを愛していると言えるか?」


マルギット「愛しているわ!」


おねがい、フロリアン核心つくのやめて。一旦黙って。


ロリアン「愛しているのならカールとこの家を出て家庭を築けばいい」


マルギット「そうする」

 

ロリアンーーーーッッッ!!!


それでマルギットはカールに頼んで、父親に出て行くことを伝えてもらおうとします。
カールもそうしようぜ〜っつって父親に話をつけに行きます。


カオス。わたし、何を見ているんだろうって何度も思った。


マルギットの無神経さがすごい。人間って、関心のない人間に対してここまで無神経になれるんだなって感心した。それでそういうことって現実によくあって、人って余裕がないと相手の立場や感情を慮れないんですよね。マルギットには余裕などないから、フロリアンが自分を愛しているかもしれないなんて頭の片隅にさえない。自分がカールを愛していて、外の世界で自由になることだけが彼女の目の前にある。そこが彼女の魅力なのかな〜純真無垢で人を傷つけるということに躊躇いがない。

 


ヒロインのマルギットは、無邪気で優しい愚かさも女性のひとつの優美とされた時代の人物像です。

 

霧深きエルベのほとり パンフレットより


そんでフロリアンは何?君は、もしかして「無」か?
愛していて、結婚する予定だった女性が、自分より粗野で身分の低い男と結婚するとのたまっているのにそれに怒るどころか、彼女の我儘で破談になりそうになったところをも指摘してやるその寛大さ。寛大というか「無」。私はなんだか彼の魂の在り方が空恐ろしくなってしまったのです。
ロリアンの欠点は「欠点がないところ」だと思っている。そのフロリアンの欠点はいつかマルギットを追い詰めていたのかもしれない。まあ全部推測ですが...。余談だけど、あんまりにも頭がキレるので生きるのに退屈してそう。一応フロリアンは作中で「カールとマルギットを応援するのは、自分のためだ」みたいなことを言うんですが本当か?


んで、それまで空気だったカールがマルギットの父親と現れて、手切れ金を貰ったのでマルギットとは別れる。もう会わないと言い出す。ここで、京都大学での公演で上田先生が鼻息荒く語っていた「手切れ金の札束でマルギットを殴る」シーンですよ。
カールってほんとに「いい人」ですねえ。マルギットのことを愛しているから自分はどんな外道に堕ちてもいいと心の底から思っている。

それで、カールが家を出て行ったり酒場の女(演:英真なおき)に泣きついたりするのですが、結末はご自身で確かめてください。

度々フロリアンの鋭さに身を竦ませたり、マルギットの無邪気さに慄いたり、カールの「良い人」さに泣いたりと感情が忙しい作品だった。


こんな書き方をすると本当に面白いのか?と聞かれてしまいそうだが、私はすごく面白いと思った。先述したマルギットとフロリアンのシーンなんかは緊迫し過ぎて久しぶりに宝塚大劇場で静寂を味わったし、誰かが誰かに殴りかかってもおかしくないほど白熱した議論が繰り広げられていたので。
人間の持つ愛情と非情さ、みたいなものを考えさせられる作品だった。
私はあんまり星組を見ないので詳しくないのですが、このエルベに関しては当て書きレベルで役者にしっくりきた作品なのではないかと思っています。他組は2回までと決めているので、あと1回でフロリアンの虚空について読み取れたらいいな...!


あ、あと最後にトビアス(演:七海ひろき)と結婚したの、わたしです。


 

*1:だよね